壊れたら直そう日記


さくらぃ(櫻井啓一郎)の私的な日記です。なお、最近はもっぱら[ついったー] を使っています。一覧はこちら(twilog)
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2007-03-25 (Sun)

デマのお掃除

一昨日槌田氏を取り上げたついでに、もうひとつ片付けておこう。太陽光発電に関するデマの出所と思われるページだ。

ここの下のこのあたりのページに、近藤邦明なる人物による、下記のような記述がある。

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1)「太陽光発電は、エネルギーを生産するのではなく消費するシステムである」(=エネルギー収支がマイナス)

2)自然エネルギーによる発電の出力変動は、致命的な欠陥である。

3)「太陽光発電システムを運用するためには、最低でも420(既設揚水発電所の10倍)以上の揚水発電所を新たに建設しなければならない」

結論から言うと、どれも間違いである。間違いの原因は、主に下記のような点に集約される。

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基礎知識の欠如、もしくは意図的な無視:既に広く公開されている検討例やデータを引用せず、そのような検討が不可能でデータも存在しないかのように書いている。

科学的検証の欠如:随所で仮定(想像)を交えながら議論しているが、その妥当性を科学的に検証していない。また、仮定に基づいた結論を、別の場所で「確実」なものとして引用している。

無用な制限事項の設定:単一の発電方式だけで、国の全電力を賄うことを前提にしている。

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カンの良い方なら、この3点が念頭にあれば、近藤氏の議論の進め方がニセ科学のそれだとすぐに気付かれるだろう。

全文にくまなくツッコミを入れていたらそれだけで本が1冊書けてしまうだろうが、間違いを読み解く助けになるように幾つか要点を解説していこう。参考にして頂きたい。

とりあえず、まず1点目について書いておく。残りの項目についても、追ってフォローしていくことにしよう。

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(1)太陽光発電のエネルギー収支について

このページにおいて太陽光発電の生産に必要なエネルギーの見積もりが行われている。

発電量の見積もりが長々と書いてあるのだが、実際に投入エネルギー量やエネルギー収支の見積もりを行っているのはページの一番下のあたり、2-3-2のe.の項である。近藤氏は

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「新エネルギーを推進する側からの詳細なデータが無いために、積上げによるエネルギーコスト分析は不可能である。」

という理由付けを行ったあと、

窯業など他の業種の

・生産価格に占めるエネルギー購入費用の比率の(H16年の)データから、

・そのうち最も高い比率を「とりあえず」2〜3倍して、

・その全てが石油由来だと仮定して

消費エネルギーを見積もろうとしている。結果、

「大規模な太陽光発電の発電単価は、70円/kWh程度と言われている。(中略)この場合の投入エネルギーの経済コストは、

70円/kWh × ( 0.15〜0.20 ) = 10.5〜14 円/kWh

石油火力発電の5.4円/kWhに比較して、2〜3倍程度の石油投入が必要になる。」

と結論付けている。

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論拠とされているのは、これだけである。なんのことは無い、実際に太陽電池にどのような材料がどれだけ使われているか、実際にどのような方法で生産されてどれだけエネルギーが必要か、全く考慮していないのである。

氏自身も「どこまでも推定値であり、異論があることも承知している」などと書いている一方、その妥当性を実データと突き合わせて検証した形跡は見られない。これだけでも根拠薄弱に過ぎ、ニセ科学の要件を充分に満たすが、さらに下記のような問題点も指摘できる。

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エネルギーの消費量を直接調べず、わざわざコストという間接的な要素から見積もろうとしている。

当然だが、エネルギーの購入量と価格は完全には連動しない。利用するエネルギーの種類が特定されず、また大量に消費する業種では割引が考えられるなど、無視できない誤差要因になる。しかも太陽電池以外の製造業種から見積もるに至っては、何をか言わんや、である。

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既に広く公開されていて学術的な裏付けがあって、第三者の検証も受けている手法や計算結果を引用していない。

本当に近藤氏の書いているような(いい加減な)手法しか見積もり手段が無ければ、話は別かも知れない。だが実際には、太陽光発電システムの生産に必要なエネルギーの見積もりは、原料の採掘・精錬・運搬や周辺のインバータ回路などの設備まで含めて、欧州・米国・日本などにおいてそれぞれ行われ、学術論文などとして昔から広く公開されていて、太陽電池が確かにエネルギー源になることを示している。例えば2000年の時点でこのようなまとめがされていて、出典と共に、30年の寿命に対して1〜3年程度でエネルギー的に元が取れると報告されている。このような調査結果は、論文データベースなどで検索すれば(最近ならgoogle scholarでもOKだ)元の文献が直接見つかるし、一般向けの書籍でも引用されている。文献には有料のものはあるが、基本的に誰でも入手できる。

それどころか5年も前から、日本の一般書店でも詳細な計算過程そのものの解説書が入手でき、使用する材料や製造プロセス、計算の手順が事細かに記されている(「太陽光発電工学」、2002年)。ちなみにこの本、著者は東京大学理事の山田興一教授、そして東京大学の総長・小宮山宏教授その人である。すなわち近藤邦明氏、なぜか日本の学術研究の最高峰にすら言及していないのである。

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こうしたデータに疑問があるから使えないというならば、その点を指摘した論文を権威ある国際学術誌に投稿し、広く検証を受けるべきである。近藤氏は”知らない”で済まそうとしているようだが、

・既存の研究結果を知らなかった→事前調査が足りない

・既存の研究結果を知っていた→自説の方が信頼できる理由を論理的に説明せねばならない

ということで、どちらにしても言及していない時点で失格である。

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ちなみに、そこで”私の学説は迫害されてるからどのみち掲載されないんだ!”などと言うのはニセ科学の手法である。今は学術誌同士が国境を越えて競争しており、外部機関による格付け(Impact Factor)までされる時代である。査読は複数の人間で為されるのが原則であり、たまたまどれかの学術誌の査読者が恣意的に掲載拒否を勧告したとしても、内容が正確で論理の通った論文ならば、他の査読者や数多ある学術誌によって掲載の機会が提供されるはずである。一部の権力者に牛耳られているんだとか、そのような時代錯誤な言い訳は通用しない。

そもそもこの近藤氏が指摘しなくても、本当に太陽光発電(や風力発電)が学術的に見ても環境保護に貢献しないと言うならば、それこそとっくにNatureやScienceなどに取り上げられているはずである。

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重ねて言う。この近藤邦明なる人物による太陽光発電の生産に要するエネルギー量の見積もり手法は致命的に不適切であり、学術的にみて間違いである。一言で言えば、ニセ科学である。

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より正確に言うならば、根拠が無くても想像するだけならば勝手だ。しかし、それを他所で「確実」な論拠として用いれば(実際に氏はそれをやっているのだが)、嘘をついていることになる。

ちなみに

欧州での最新の見積もり結果がここにある。←リンクし損なっていた。修正。

多結晶シリコンを南欧州で用いた場合でEPTを2年ぐらい、CO2排出量を37g-CO2/kWhと見積もっている。この論文は、オーストラリアの石炭業界が「太陽光発電のCO2排出量は100g-CO2/kWh以上だ」などと言い出したのに対する反論として出されている。石炭業界が論拠とした材料別の排出量のデータベースの値が古すぎたことが発覚し、データベースの値自体が修正され、この石炭業界の主張が今や根拠の無いものであることが書かれている。

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即ち、最新の見積もりが引用されるたびに、デマ流布の顛末も読まれる形になっていたりする。

日本でこんな恥ずかしい事態が発生しないことを祈る。

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余談だが、うちのセンター長の名前は近藤道雄と言う。上記の近藤邦明氏と混同されないよう、お願いする。:)

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続きはこちら

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(2009.3.5 追記) 信頼できる情報源による分析データについては、下記を参照いただきたい。

解説スライド

太陽光発電のエネルギー収支

再生可能エネルギーのエネルギー源としての性能の最新見積もり結果の集計

海で燃料を栽培

海藻から大量のバイオ燃料を取る構想。こいつはすげぇや。この調子で、アオコとかも使えるようにならんかな。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]
「太陽光・風力発電トラスト」運営委員、中川修治 (2007-04-30 (Mon) 11:04)

エネルギーペイバックタイムとコストペイバックタイムを混同するものが多いのは勉強不足を指摘して説明すれば良いのですが、恐ろしいのは原子力推進派が古いデータをそのままそ知らぬ顔で使い続けていることでしょう。貴職が働かれている太陽光発電研究センターのhttp://unit.aist.go.jp/rcpv/Kaisetsu/Digest-GEGemission.html<br>ファイルに有る数字からは既に原子力と同等かそれ以上にCO2排出量は減っていることになるのですけど、原子力白書や電力会社などのHPや印刷物などでも10年前の古いデータのままで比較されていてそれが原子力を受け入れさせられる説得ツールとなっています。さらに、ピーク対応電源としての特性なども勘案すれば、今の状況なら十分に社会的なコストは吸収していると考えられますけど、米国にはエイモリーロビンズ氏らの研究がありますが、そうした認識を持てるようにな研究成果が公開されることは日本ではないようですね。それが残念です。


Written by "バカ殿"さくらぃ
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