2009-11-01 (Sun)
☆ 新制度開始
本日より太陽光発電の新たな買取制度がスタート。関係者の方々の努力に改めて敬意と、技術者の端くれとして感謝を。
既に設置されている場合でも条件を満たしていれば対象になります(というか、既にそれを見越して導入量伸びてるようですが)。
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この制度の目的は、生産コスト低減の加速。そしてそれがもたらす経済・産業・エネルギー面での利益の創出(「排出量削減」を含む)。
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環境保護はオマケ…勝手について来る。(というより「温暖化対策」を効率よく進めようと思ったら、結局はビジネスに落とし込むのが一番話が早い。急がば回れ。)
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ドイツなどの成熟した制度に比べればまだ不足する点もあるけれど、国内市場も拡大を再開したようで、第一歩としては十分だと思います。
とは言え、今後も普及と共に制度を「走りながら改良していく」必要があります。定期的に見直しの機会があるので、そこに率直な(かつ、なるべく建設的な)意見を持ち込んで頂くのがええかと。
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たぶん、今後の見直しでは下記のような事柄が議論されるかと思います。
・全量買い取りの導入…例えば住宅向けは全量・余剰の選択式、大規模では全量の導入、という形態が考えられます(というか、代表例のドイツがそうなってますが)。
・公共・産業向け(メガソーラー等)の推進…量を稼いで、国内の生産コストを引き下げる。電力需給のバランス上も好ましいかと。
・集合住宅での手続きの煩雑さ緩和…現状でも導入は可能ですが、手続きがややこしいそうで。既に導入してるところは入居率が非常に高くなってるそうで、需要も強いかと。
・設置条件による住宅向け助成の細分化(新築・既築、変換効率、建材一体型、フレキシブル型)…建材一体型、HIT型やフレキシブル型等の販促は産業的に重要ではないかと思います。その一方、新築と既築では安くなるペースが違ってくると思うので(既築の方が流通・工事などのサポート体制の構築に費用と手間がかかるため)、区分した方が助成の費用対効果が上がるんじゃないかと。
・低所得者層への負担軽減…使用電力量に応じて負担率を変えるなどの手があります。
要するに「かゆい所に手が届く」ようにして、限られた資金でなるべく大きな利益を産み出すようにしていけばいいはず。
またこういう考え方は、他のエネルギー源や排出量削減策の普及にも応用が利くかと(それこそエコカー補助とかにも応用できる点は多いはず)。
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私としちゃ、せっかくの新しい技術、うまく活用して少しでもたくさんの人がハッピーになってくれりゃいい。
そうすればたぶん、親兄弟友人知人の居る国を離れずに済むし(笑)
☆ 信頼性
加藤などが調べてデータをぼちぼち発表してますが、うちのセンターでフィールドテストして調べた限り、やっぱり日本製は他国製に比べて信頼性が高いです。故障率数分の1。伊達に何十年も手がけてない、という感じ。
こういうデータを今後どういう風に集め、どういう風に発表していくか、という点も議論されていくことになるかと。
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公的機関による試験だけでは限界があるので、インストールベースでの調査も必要になるはず。
☆ 追補
議論対象になりそうなことで、もう一つ書き忘れ。
・市民発電所に対する助成の拡充
ドイツとかで効果を挙げている。自分の家の屋根の代わりに、近くの工場やスタジアムの屋根に共同出資、みたいな感じで。
ただし長期預金程度の金利は期待されるんちゃうかな、この場合。また日本では今のところ電力会社が嫌がっている。
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なお国内市場は毎年拡大を図るのが基本だが(それが無ければ国内のコスト低減ペースも鈍る)、世界全体のここ10年程度の実績から見る限り、年間市場が平均で毎年4割(以上)ずつ増えるペースが目安になる。太陽電池の工場なんざ1年もかからずに建つので技術的にはもっと急激なペースだって可能だけど、普及ペースとしては今のところそれぐらいになってる。
2009-11-03 (Tue)
☆ 質問に返答
「全量」と言っても日本の場合、ドイツ式の投資対象としての需要の他に
・「将来の電気代値上がりに備えたい」
とか
・「自社のCO2排出量削減に使いたい(=将来の排出権価格上昇に備えたい)」
という需要があるので、助成形態に工夫を加えることで助成水準を引き下げられるんじゃないですかね。
やり方は色々だけど、自家消費分にインセンティブを与えるやり方などがあります。補助金も有効だけど、発電量に応じた助成が基本。
2009-11-04 (Wed)
☆ 時は金なり
(1)現在の太陽光発電の世界市場は約2兆円。5年後までには10兆円を超えると見られている。今後5年間の世界市場の累計を、控えめかつ大雑把に約30兆円と仮定する。
(2)仮にこれまでの5年間の対応の遅れで、シェアが2割落ちてしまったとする。その差は6兆円。
(3)うち3割が純粋に貿易収支に貢献できたはずとする。1.8兆円=18000億円。
(4)5年間で割る。対応の遅れ一日あたり、5年間の貿易収支に約10億円の損失。その後の5年間なら、もっと大きくなるかも(しかも、ずっと継続するだろう)。
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太陽光発電一つ考えただけで、この額。
実際は日本だけで生産するわけじゃない一方、逆に他の分野の産業への波及効果など他の利益も考えられるので、あくまでも目安だが。
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これまでの遅れを責めるのが目的じゃない。いつまでも守りの姿勢で同じことを繰り返したいですか、それとも攻めますか、というお話。
2009-11-10 (Tue)
☆ ぽき
自転車で転んで足を骨折しました。一ヶ月ほど松葉杖生活です。
講演が大変だこりゃ。すみませんお手間かけます>関係各位
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なんでもない曲がり角だったんだけど、落ち葉で滑ってどんがらがっしゃん(ぎゃふーん)。
それでも普通なら足首の捻挫で済む程度だったんだけど、すごく柔らかい靴だったので変に足の甲が捻られてしまって、中足骨を骨折した次第。靴は硬いものの方が安全なんかな、やっぱ。
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しかし松葉杖なんて生まれて初めてだ。へー(珍しがっている
☆ CM
直近のオープンな講演の予定です。火急の用の無い方はお気軽にどうぞ。
・11/14(土)名古屋:グリーン電力シンポジウム、ポートメッセなごや交流センター、13:15〜 …既に定員に達してるようですけど (^^;
・11/15(日)京都:第2回PV-Net京都フォーラム、キャンパスプラザ京都、13:00〜
・11/16(月)広島:聞いてなっとく!温暖化と太陽光発電、東広島市中央公民館、14:00〜
・11/17(火)福山:脱温暖化地域セミナーIN福山、環境保健協会 東部支所、13:30〜
☆ はやぶさ満身創痍
・はやぶさ、イオンエンジンが残り一台に…ぐぉぉ。なんでもいいから還ってこい!(T-T)
2009-11-11 (Wed)
☆ 環境税
ようやく動き出した感が。いずれ避けられないならば、「反対」「慎重に」「検討が必要」「難しい」ばかりを壊れたテープレコーダーみたく繰り返すのは禁止ではないか。
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たとえば欧州だと再生可能エネルギー関連産業だけで2020年にはGDPの1%を越えそうなんだが、そういう新産業の貢献を無視したモデルばかり使って文句言うのはどうか。しかもそのあとさらに桁違いに育つ見込みとなれば、無視が妥当とは思えない。
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そもそも既存の商売ばかりが、商売ではないはず。それすら分からん人が、経営者と呼べるのか。
クルマ一つとっても、電動化すると高熱を発するエンジンが無くなるため、金属部品を大幅に減らせてしまう。そもそも鉄鋼の需要が減るだろう。その分はどのみち、他の場所や手段で商売せねばならんはず。その変化に対するサポートは、いまのうちに必要ではないのか。
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ちなみに欧州だと、(国にもよるけど)炭素税の半分を雇用対策に使ったりしている。産業構造が変わっていくので、再雇用や再教育をサポートするのに使われる。
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はじめるだけの技術は、既に我々の手にある。変革の律速要因は、投資と人材だろう。その認識は、抵抗派の方々にはあるんだろうか。
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その変革の速度はドイツの例で言うと、たぶん労働者の何割かが一生のうちに一回転職するような、そんな速度だと思われる。それは本当に耐えられないような負担だろうか。実例を見る限り、大丈夫ちゃうかと思うんだが。
2009-11-16 (Mon)
☆ めも
やはり政策が実際に動き出すと活発になる。追い切れないぐらい。
・6〜9月の太陽電池の出荷量、国内・輸出ともに急回復(日経)。前年同期比+31%。国内は2.6倍に急増。輸出も金融危機前の水準に回復、米国市場などが拡大へ。…よっしゃ、これでこの数年の落ち込みからようやく脱出かな。あとは堅実に進めたいところ。暴走せず落ち込まず、なるべく一定の伸び率で。
・しかし悪徳業者にはご用心(産経)。…即決厳禁、合い見積もり必須。
・三洋、欧州でHIT太陽電池を増産(日経)
・東京ガス、太陽光発電の燃料電池との併売を拡大(日経)。…技術的にみて相性がいい。燃料電池も今は高いけれど、今後いろいろ応用が利きそうで楽しみ。
・三洋電機、リチウムイオン蓄電池システムを発売へ(朝日)[ニュースリリース]。1.6kWhシステムで約20万円。…これが「1kWhの充放電を3650回」できて、値段が1/3になると、今の家庭用電力小売価格で元が取れるようになる計算。
・関西の蓄電池開発企業、投資への政府支援を要請(日経)。…蓄電池の善し悪しにエネルギーも環境も、経済も懸かっていると思う。
・日産と宮崎県、EV普及と県産の太陽電池活用で協定(フジサンケイ)。…CIGSは自動車用に向く。薄くてデザイン性高くて軽くて高効率。
・日清紡、上半期はスペインショックなどを受けて苦戦(ロイター)。下半期は回復が見込まれる。
・三菱化学、トラックの冷房にPVを活用(日経)
・山梨県と東電、未活用だった造成地をメガソーラーに(毎日)。…最初からPVのための造成だったら抵抗のあるところだが、未利用地の有効活用ならええか。県の損失を補うこともできる。
・関電、若狭でメガソーラーの試験(中日新聞)…若狭って日照量少ないけど。耐雪試験?
・大和ハウス、PV付きの集合住宅を発売(日経)。…日本のこれまでの事例では、入居率が非常に高くなっていると聞きます。
・トステムなど、PV装備+EV充電な住宅の開発(ビジネスアイ)。
・電事連会長、全量買取に懸念を表明(ビジネスアイ)。…全否定されなくなっただけ前進なんですが。国民の理解を妨げているのは、お側にいる茅先生だと思うのです。20年以上、ただひたすら「難しい」「検討が必要」「慎重に」だけ…100%確実に行き詰まる意見。
・米国の太陽光発電、ハード・ソフト両面で成長中(朝日)…攻勢に転じる。
・有機薄膜太陽電池の開発競争本格化(産経)。…スピンコートとかで造れる。
・ナイジェリアがRPS/FITの導入を検討中(photon)
・温室にPV??(Photon)…なんじゃこりゃ(汗)
・スマートグリッドなどでの日米協力の内容がさらに具体化(環境メディア)
・排出量削減負担の再計算(環境メディア)…2020年時点では真水が15〜20%ぐらい、残りは排出権購入(=途上国支援を兼ねる)、ってあたりが国際的に足並み揃いやすい&そこそこ安上がりでええんかな?
つか、いい加減に「産業構造変革によるプラス分」も考慮できるような新しいモデルを構築して下さい>その筋の方々。澤先生とか思いっきり騙されてるやん(苦笑)。
・今年の太陽電池市場、結局は拡大へ(PV-tech)…金融危機等の影響で一回休みかと思われていたところ、結局は昨年に比べても拡大基調の予測。…わはー。
・Hemlock(=世界トップシェアメーカー)、シリコン原料の増産計画を発表(PV-tech)。どんどこ増産。そして価格も低下中。
☆ ヒアリング
えーと全量買取についての議論ですが、経産省でご意見募集やってます。下記をご参照。
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それから今日頂いた質問幾つかに回答。
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「お金のないひと」「自分の家に設置できない人」については、たとえば下記のような参加手法が考えられます。
・生活に余裕の無い家庭に限り、国や公的機関が設備投資を出す&売電収入を得る。家の持ち主は屋根を貸して、その利用料を貰う。
・市民発電所の拡大(任意の額をスタジアムの屋根などの大規模発電所に出資し、売電収入を得る)。ファンドなどの形態も可。
・集合住宅でも設置しやすいように諸制度を改正。(技術的にはもとより可能。ドイツじゃむしろ集合住宅の方が普及が早かったはず。)
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「貧困層の負担」ですが、現在の電力料金同様、電力消費量の少ない家庭は負担を低くするなどして逆進性への配慮が可能です。
しかしそれ以前に、去年の原油高騰の影響は標準家庭で月400円ぐらいになって、しかも逆進性への配慮なんてなかったんですけど。
しかもこの「貧困層の負担」の批判、その石油に関連の深い某機関が流してるんですが。ふざけんな、って感じですわ(--#山
2009-11-19 (Thu)
☆ CM
今週末は山口と鹿児島でオープンな講演があります。先週と合わせて西日本縦断コース。
・The 11th IEEE Hiroshima Student Symposium(パネルディスカッション)、山口大学工学部 常盤キャンパス、21日(土) 13:00〜
ショートプレゼンですが、そのあとの交流会などで適宜つかまえて頂ければ幸いです。
・かごしま環境・新エネルギーフェア、かごしま県民交流センター、22日(日)13:30〜
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よろしくお願いいたします。
☆ やりがい
以前CIGS太陽電池の開発でお世話になっていた計測器メーカーさんと情報交換。当時だいぶ苦労して測ってもらったのが、商機に繋がりそうらしい。こちらも嬉しくなる。
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つかやっぱり、苦労してでも他人より頭ひとつ抜けないといけないよな。
2009-11-22 (Sun)
☆ 感想
西日本縦断ツアーより帰還。
自治体とか電力会社とかNGOとか企業とか学生さんとか、色んな立場の方々のご意見が聴けました。
全般に、僕が予期していたよりインセンティブ強化への要望が多かった、というのが率直な感想。要望も様々で、単純に助成水準がもう少し欲しいという意見のほか、助成形態の多様化への要望も多かった。
そういう意味で全量買取などの議論はタイムリーだと思います。そんだけ動こうとしてる人達が居られるなら、それを活かさない手はないような。
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課題はやっぱり、国としての戦略。
日本全体に言えることだけど、経済やエネルギー安全保障や環境でさんざん問題が取りざたされてるのに、これらに対する解決の道筋が国として示されてない。そのことに対して、色んな形での不安・不満・苛立ちを見聞きしました。
つかそこは僕自身も感じてることなんだけど、それを僕が言う前から質問としてぶつけて来られる人もたくさん居られましたよ。それこそ、たまたま乗ったタクシーの運転手さんに突然そういうことを言われて面食らったぐらいで(苦笑
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欧州とかアメリカ・中国などではそのへんの問題は全部ひっくるめて総合的な対応プランを考えてるように見えるんだけど、日本はここ10年以上ひたすら「難しい」「検討が必要」「慎重に」ばっかりだったんだよね。茅先生とかええ加減にせぇ、という感じ。
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あと技術的な話では、日本はこれまで小規模分散型をナメすぎてきましたね。既に世界の家庭の100軒に1軒以上の割合で、風力発電で電力が賄われているというのに(GWECの集計で、2007年時点の風力による発電量は206TWh。IEAの集計(WEO2009)で世界の発電量は19756TWhなので、もう1%を超えている)。そしてあとほんの10年で10軒を超えそうな勢いだというのに。
しかし大変失礼ながら、それを聞いて多くの人が今更驚くようでは、日本から投資が逃げるのも無理ないわ、と感じます。アンテナ張ってる方々は気付いているのに、全体的には変化に疎すぎるし、対応も遅すぎると思います。
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俺は基本的につっけんどんな言い方しか出来ないんだけど、今のままやと日本どうなっても知らんで、というのが率直な印象。一部のジーサマ方の先入観に騙されすぎ。
2009-11-24 (Tue)
☆ 日本の気温変化の確認方法
・気象庁の気象統計情報:過去の気象データ検索から、好みの地点の平均気温のデータを選んで取得。
・その際、ヒートアイランドの影響などが無視できるよう、岬や離島などのデータを選択。
・適当にExcelなどでグラフにする。
・年ごとにそれなりに変動してるけど、その中心値は確実に上昇していることを確認する。
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つかそんなもんいちいち確認しなくても、20年前などと比べれば、身の回りでも気候の変化が実感できるはず。
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(追記)このグラフ、自由に配布下さい。改変はダメよ。:)
2009-11-27 (Fri)
☆ 事業仕分け
気付いた範囲でフォロー。
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補助金をなくして全量買い取りに置き換えるならば(既にそう表明されてるわけですが)、「補助金見送り」だけでなく「別の助成制度に置き換え」ということもセットで言わないと(報道しないと)あかんと思います(苦笑)。
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また置き換えるまでの間、助成が途切れないような配慮も望ましいかと思います。
すぐにも1兆円以上の規模に育とうとしている産業ですので。
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電源交付金の見直しの必要性は同意。排出量削減の方向に変えていくと同時に、地元がもっと使いやすいようにする(インセンティブの効果を高める)のがええんちゃいますか。
取りかかれるだけの代替技術は既にあるわけだし、今のままでは時代遅れかと。
Written by "バカ殿"さくらぃ
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