2012-04-25 (Wed)
☆ 買取水準が高すぎると…?
非住宅用太陽光発電の買い取り価格についてのコメント。適宜更新します。
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買取価格として、42円/kWh・20年が検討されているようです(→追記:決定したそうです)。それまで流れていた話では「35~38円/kWh、15~20年」だったので、驚いています。また2008年のスペインのように、暴走するのではないかと心配しています。
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またこの決定に際し、一部の方が3年も前のドイツの価格だけを例に挙げて関係者を煽られたとも聞いております。しかしドイツの買い取り価格はその後半減して20円/kWh程度になっています(&それでも普及が続いています)ので、もしもその話が本当でしたら、怒りを覚えます。(2012.9.12追記:→ドイツの買い取り価格の最新状況は、例えばPV-TECHのまとめで確認できます)
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私の率直な感想は「高すぎ」ですが、それでも関係者が合意して決められるのならば、私は止めません(というか、そんな力もありません)。今後の運用が極力スムーズになるよう、トラブル対策等に力を入れて頂くのが合理的と考えます。その際の何かのご参考になればと、高くすることのリスクとメリット、今後の注意点や課題を列挙しておきます。
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・費用が予定よりかさみ、電気料金への転嫁分も増える。そのお金の行き先は、制度の詳細次第。…たとえば5円/kWh高くなった分は、設備容量1GWあたり、年間50億円、20年で1000億円の費用上乗せとなります。
この増えた分のお金がどこに流れるかは、現時点ではわかりません。制度の詳細次第で、特定企業に流れるかもしれませんし、あるいは地方経済や震災復興に貢献するかも知れません。
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・導入ペースの制御が難しくなり、暴走の危険性が高まる。
異常な量が短期間に導入され、費用がかさむことで反感を招き、その後急速に市場が縮小する危険性があります。
市場を混乱させ、真面目に努力してこられた関係者の長年の努力を台無しにし、国益を損なうリスクがあります。導入量制限などの対策を施さねば、非常に危険です。費用を支払う側だけでなく、関連産業にとっても。
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・化石燃料の輸入量削減は進む…化石燃料の輸入費用は(原発が止まる前から)近年の日本経済に深刻な影響を与えていますが、その抑制が進みます。ただし再生可能エネルギーは基本的に「前払いの飲み放題」ですので、一度設置してしまえば燃料費は要らないものの、普及を進める段階ではまとまった費用がかかることにも注意が必要です。
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・昼間時の電力不足による停電の発生回数を減らせる可能性はある。
ただし現時点では出力予測技術も普及していませんし、上記の出費増に見合うほどの効果があるかどうかはわかりません。
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・一般の方がより参加しやすくなるかもしれない。
共同で出資・運営する市民発電所や、自宅の屋根を設置場所として貸し出す「屋根貸し」型の事業が行われれば、その採算性も改善します(下手に銀行に預けるより良くなるかも…)。
ただし、これをネタにした詐欺等の増加も危惧されます。
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・粗悪な施工の増加や、系統連系が間に合わない等の問題を引き起こす可能性がある。
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・やり方次第では、その後の値下げを早める効果がある。
一気に流通量が拡大するため、その後の流通コストや施工コストはより早く低減する可能性がある。ただし買い取り価格を速やかに引き下げていかないと、無駄を生むだけで終わる可能性もある。
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・国内の太陽電池メーカーにとっては、市場拡大と、淘汰の促進。
確かに国内市場は拡大するのですが、国外企業の参入により、基本的には競争の激化が予想されます。
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・大規模太陽光発電設備の施工等の関連企業にとっては、基本的に商機の拡大。ただし同時に、海外企業との競争も激化。…大規模システムについては、海外企業の方が経験豊富です。遅かれ早かれ、国際競争力がモロに問われます。
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・既に国際競争力を有している企業にとっては、商機拡大…たとえば樹脂、電力制御、評価装置等。
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・議論が長引くおそれ。…本来買い取り価格で制御を行うところが、容量制限(cap)によって制御する話に変わってしまう。議論が一部やり直しになる危険性がある。
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・やり方次第では、地域経済や震災復興に貢献しうるし、その逆もあり得る。
capの枠を優先的に割り振ることで、地域振興や震災復興に貢献させることは可能。逆に何も工夫をしなければ、一部の大企業に利益を独占される怖れもある。
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直近の課題:
・暴走対策…導入量制限(cap)、導入ペースに応じた自動引き下げなど。capの場合、どのように実効性を持たせるかも重要な点。また少なくとも、関係者が緊急会合を開く条件等を事前に決めておく。
・導入ペースと価格低減ペースの検討…年間導入量をどのように推移させていくのか、価格はどのぐらいのペースで下げていくのか。
・お金がどのように流れたか調べる…どれだけ国内投資や価格低下に貢献したか、なるべく詳細にデータを集める。
・市場データ収集間隔を縮める…半年ということになっていますが、その価格ではおそらく四半期毎の集計が必要です。
・系統側の対応の加速…送電網強化、出力予測、スマートメーター、等々。
・人材育成の加速…品質・信頼性の向上、国内企業・人材の他分野からの参入促進。
・トラブルの監視…粗悪工事、粗悪品の流入、詐欺、稼働状況等々の監視の仕組みの構築。
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個人的には、その価格で行かれるのならば、とにかく実効性のあるcapを設定されることが必須だと感じています。
また今回から、事業者にコストの内訳を報告することが義務づけられます。それを参照しながら値下がり状況を逐次把握し、半年毎の見直しの際に買い取り価格をどんどん下げていくことが重要です。
☆ 提案
このような価格ですと普及量は買取水準では無く、導入量制限(cap)に左右されると予想できます。
それを逆手に取るならば、capの割り当てを工夫することで、地方や被災地など、「特に支援したいところ」にお金を回すことができると思います。
たとえば、
・「地域の資本や自治体が主体のプロジェクト」専用の枠を設ける。
・被災地専用の枠を設ける。
現下の情勢ならば、半分以上、いや8割方をこうしたところに振り向けても良いかもしれません。
☆ 関連する課題
なお今回の議論で直接取り上げられていないけれど関連性の深い課題としては、下記のようなものがあります。
・熱利用の促進…現時点では電力しか議論されていませんが、太陽熱・地中熱等の利用を進めることも必要です。
・コジェネレーションの促進…熱と電気の両方を発生する、バイオマス・燃料電池・ガス発電等の利用を促進することも重要です。
・民生部門の省エネの促進…日本は省エネ大国とは言われていますが、実は一般住宅の断熱など、対策の手ぬるい分野がまだまだ沢山残っています。
・途上国・新興国市場の開拓促進…エネルギー関連の市場で最も伸びが著しく、規模も大きくなっています。また技術を1つ1つ単品で売るのではなく、幾つか組み合わせた包括的なシステム(インフラ)として、その後のサービスも込みで売り込む必要があると思われます。
Written by "バカ殿"さくらぃ
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